架空に筆を滑らせて【小説】
「ねえ、おはよう」 「おはよう。・・。いつもの場所で」 「うん、」 手頃なディスプレイに映る、丸くくり抜かれた星座ー射手座ーは、もはや見慣れたものだ。 その周りを彩る音声波形は、まるで流星群のように、一言、二言紡ぐたびにそのビジュアルを散りば…
人間が、人間でいられる最後の日であることを、彼女だけが知っている。 彼女は河川敷を愛でるように、そのごわごわした薄緑色のカーペットに座ったまま川を見ていた。 彼女の背後にこれから美しくなっていくススキが風を受けて黄金色に揺れている。雑草は昨…
新しいあさが来た。瞬く間にその照りつける惑星が目に入る。ほおがフッと上がる感覚を覚える。そんな朝。 手を天に掲げて、思いっきり足を振り上げて体を起こし、このまつ毛が目に入るのを感じ、思い切り手を使って擦る。 窓の外には、いつもと変わらない、…
慣れている。 そんな言葉を浴びせられるのは。 先輩から最初に教わること。マニュアルからも何回も言われた。 「俺らは非情にならなきゃならない。」 それが会社への貢献なんだ。 何も思わなかった。当然だ。 芸能人に情など写ってはこの仕事は成り立たない…
「あっち照明お願いしま〜す!え、バミリずれてる?すぐ修正しなさいよ・・」 そんなこと言われてもだ。そもそもこればみったの部長じゃん!なんで俺が部長の尻拭いしないといけないんだよ・・・。 先日、俺は舞台を見た。 とても美しかった。 細部までこだ…
今日の空は、何だろう。 空に手をかざして、ため息をつく。 それから目の前に転がっているいくつかの「それら」に、 手に持ったそれを一つ一つ入れていく。 ゆっくりゆっくり入れると、 鮮やかにとくとくとくとく染まってく。 次の水換えの時間は、いつかな…
口に流し込んだもらいもんのそれを包む袋を、ものがごちゃついた机に捨てる。 「ファ〜、ラムネって美味〜!」 やる気、それは尻を叩かれてもなかなか出ない。今は執行猶予中なので、監視の眼はあるが、自由だ。やる気の出し方なんていくらでもある。 「じゃ…
歩いて向かう先は逆光に塗れた扉。 朦朧とした意識は僕に危険信号を垂れ流す。 手を伸ばしてノブを捻ろうとしても、その手は空を切った。 頭に流れるストーリー調のそれは、その向こうへ向かうのを後押しした。 最初は考える頭しかなかったが、そのありふれ…
雨がゆっくり溶けていく。あしもとで溶け切ったその“雨だったもの”は、誰かを掻っ攫って誰かが作った穴に落ちていく。落ちてったその何かは、いつしか大きな流れに乗って行き、選ばれたいくつかの何かは、雨になる準備をして、世界を湿らせながら上に登る。…
ここは美しい世界だと世間は言う。でも僕は、テレビで見た方が、綺麗に見える。色が補正されたその世界で、色鮮やかな山々を見て、本当はくすんだその真っ青な海で、綺麗なクラゲを見ていたい。ある時、僕のテレビでいつもみたいにテレビを見ていた。そした…