wind’s book

物語の中の私が、才能を求めて愚かな一ページをめくるお話

彼岸と花

人間が、人間でいられる最後の日であることを、彼女だけが知っている。


彼女は河川敷を愛でるように、そのごわごわした薄緑色のカーペットに座ったまま川を見ていた。


彼女の背後にこれから美しくなっていくススキが風を受けて黄金色に揺れている。雑草は昨日の雨で水の助けを借りて、つるりと煌めいている。


彼女は何を思ったのか、すたっと立ってそのススキのカーテンへ目を移した。


不意に、彼女の瞳に、彼岸花が映った。


それは、その雄大に広がるカーテンの真ん中に、ただひとつ佇んでいた。


「さわるの?」


どこかから声がしたらしい。彼女はそのクリっとした目をさらに大きく広げて、それからニコッとして、“誰も”いないそこへ、声を届けるために口を開く。


「さわっていいの?」


また、誰かが返す。


「いいけど、危ないよ」


「なんで?」


「だって、それ、持って帰ったら火事になるんだよ」


「しってるよ。」


「つまむとシニンが出るんだよ」


「シニン?」


「それに、あのよとこのよをつなぐはしがかかるんだよ」


「あのよはステキなものだって、ままが言ってた。さいごのたづなを引くのも私なんだって」


「そっか」


その声の主はどこかに消えて、彼女はまっすぐ彼岸花の元へ歩き、それから。


「きっと、ステキなオテガミがかけるね。」


彼女はその域を後にした。


その無防備な板は、彼女が押すだけで軽く動いた。


その牢獄のような部屋には、ひとつの机と椅子、そして藁でできた寝床と、石造の水周り品に、見るからに小さく、くすんだ料理処が認められた。


彼女はまっすぐ机へ行くや、小さな引き出しから大小2枚の紙と黒い何かを取り出して、手を動かし始める。


その顔ににつかわない今日1番の笑顔を浮かべて、まるで幻想を浮かべるように手を動かしていたが、後に寂しそうにその手を止めた。


次に大きい方の紙で作るのは封筒のパチモン。


まるでチワワでも触るかのように丁寧に封筒を閉める。


そして、どこからか取り出したネチョネチョした液体で、それに封をする。


次に取り出したのは、“彼岸花”。


彼岸花を切って、組んでいく。


いくらか組んだら、くるっと回し、その封筒に貼る。水引だ。


そして残った彼岸花を、ひとつパクッと口に入れる。


そしてまっすぐ川へ走る。手に封筒を持って。


その川に、迷わず走り込んでいく彼女。制止するススキを振り払って、嬉しそうに川に走って行ったが最後、彼女はどこかに消えてった。


彼女が消えた後も、友達が消えたもう一つの彼岸花は、空の移り変わりをながめつづけていた。